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翌朝、将治の腕の中で目を覚ました凛は、彼の顔を見て一気に昨夜の記憶が蘇り、
飛び退るように逃げ出した。
「おはよう」
声をかけた将治を凛は憤怒の表情で睨みつけた。
「そう怒るな、慣れればおまえも好きなる、しばらくは辛抱しなさい」
「誰があんなこと好きになるものか!!」
凛にしてみれば絶対にあり得ないことだった。
「おれとて辛い思いなどさせたくはないが、初めは仕方がないのだ、辛抱してくれ」
「イヤだ!!」
痛くて嫌な思いをした凛からすれば当然の反応なので、むやみに叱り付けることもできない。
どうしたものやら、と将治は深いため息をついた。
朝餉のあと、
「夕には戻る」
と、告げ将治は屋敷に帰っていった。
残された凛は縁側で膝を抱えボーっと外を眺めていた。
牢の中では小さな窓から差し込む光と音と風だけがすべてだった。
こうして自由になれたのはうれしいが、ここにいるとまた昨夜のようなことを
強要されるかもしれない。
どちらが自分にとっていいのか、それを悩んでいた。
自由できれいな着物が着れ、暖かい食べ物が出てくるけれど、
将治に嫌なことをされるここか、座敷牢に閉じ込められロクに食べ物も与えられない元の村か。
村に戻らないとしてもこんな髪と目ではどこへ行ってもどのみち同じような扱いを
受けるだろう。
こんな姿に生まれついたことを呪ったのは一度や二度ではない。
座敷牢の中では毎日呪詛が胸に渦巻いていた。
あの生活に戻るのはイヤだが、ここで将治の言いなりとなって過ごすのもまたイヤだった。
「もとより生まれてきたのが間違い」
昔言われた言葉が頭をよぎっていった。
どうとなってもいいがここに留まるのはどうしてもイヤ。
それが考えあぐねた末に出した答えだった。
縁側から飛び降り、山中を歩いていく。
馬で連れてこられたので元の村がどっちにあるのかもおぼろげにしかわからない。
戻る気もないので別方向へはだしで歩き始めた。
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