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「すみません」
男が紗枝を呼んだ。苦い顔をして紗枝は振り返った。
「これ使って下さい」
男は黒い傘を差し出した。
紗枝とは違った方向に向いていた。
「僕は右手に犬でしょ、左手に杖だから傘使えないんです、
一応持ってるけど無理だから使って下さい」
傘を紗枝に手渡して歩き始めた。
紗枝はその時男が盲人だと気付いた。連れていた犬は盲導犬だった。
「ありがとう、でもあなたが濡れますから私が傘さして一緒に行きましょう」
「嬉しいけどいいんです、歩道が狭すぎるしエミも気を使う、
僕が傘に入ってもエミは濡れたままだから僕はいいんです」
戸惑う紗枝に早く行かないと電車に遅れますよと男が言った。
そうだ、急がなければと思った。
「ありがとう、お借りします、この傘どうやって返せば」
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