乙女心と春の空

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乙女心と春の空 いっそ死んでしまえばいいのに。 無数の命が散りゆく様に目が眩んだ私は、冴えない頭をもたげて溜め息を吐いた。 薄紅色の花弁がはらはらと散っている。 いっそ死んでしまえばいいのに。 否が応にも反芻される。私の苦悩が自分自身に語りかける。 魂が吸い込まれそうなほどに儚い、まるで彼岸へと招くように舞う桜。この光景を目にして『美しい』と感じる人間でありたかった。 ぱっと咲いて、ぱっと散る。 それは多分、美しいものなのだ。尊くて、清らかなものなのだ。 私には到底、理解できないけれど。 どれだけ惜しまれようと、潔く散り行く。否、惜しまれているうちが花なのか。 運命に従って旅立つ命が教えてくれる。 抗うことすら、無意味なのだと。 刹那を生き、刹那に生きたひとひらの魂。 吹けば飛ぶような危うい生命。 人の世もまた然りだろう。 死とは虚しいものだ。 私がただの屍になったとしても、世界は滞りなく回り続ける。 それでもお前は死を所望するというのか。 例外なく、平等に死は訪れる。身分や貧富の差も関係なく、誰に対しても分け隔てなく、訪れる。 寿命が尽きればやがて死ぬ。つまり『今』死ぬ必要性など皆無なのだ。 いやしかし、待ってくれ。 『今』がそのときではないと、果たして確信を持って言えるだろうか。 自動車学校の所内に植えられた一本の桜の木の前で『今』に思いを馳せる私は、生気を吸いとられたかのように立ち尽くしていた。 若人達が新しい門出に向けて、また一歩大人へと前進するために訪れる場所。誰も彼もこれから始まる新生活に一抹の不安を抱き、そして胸を躍らせているのだ。 私もその一人になるはずだった。なのに、現状は暗澹たる感傷に溺れている。 (呼吸をするには、酸素をどれだけ吸って、どれだけ吐けばいいんだろう) 呼吸の仕方も忘れるほど、その感傷はあまりにも生々しく心に触れた。 意識すればするほど息が荒くなる。
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