1人が本棚に入れています
本棚に追加
二年間付き合っていた彼氏の浮気が発覚したこと。
それが原因で大学入試の前日に別れ話を切り出されたこと。
お前は本命じゃなかったと突きはなされたこと。
傷心の思いで臨んだ受験に落ち、さらには第一志望の滑り止めで受けた大学からも不合格通知を突きつけられたこと。
それによって行き場所を失った私の浪人生活が幕を開けたこと。
おまけに仮免許の学科試験に三回も落ちたこと。(四回目にして漸く合格した)
不幸に不幸が重なり、私の精神は衰弱していた。
全く、浮気をするのは勝手だが、もう少し別れを告げるタイミングというものを考慮してほしいものだ。
受験に落ちたのは誰のせいでもない、全ては己の力不足が招いた結果なのだが、分かっていながらどうしようもないやりきれなさが胸を巣食っていた。
そうした理由から、先月卒業式に出席した際には特に何の感慨も湧くことはなかった。取り立てて良い思い出がなかったからだ。というより、青春時代の思い出は全部悪い記憶に塗り替えられてしまった。高校生活に未練がないわけではないが、忘れてしまいたい過去を思い出すのも嫌だった。
何のスキルもない。長所もない。秀でた特技もない。なにをやってもうまくいかない。そんな私には落ち続ける人生が待っているのだ。
人生の岐路で立ち往生している私は、未来に何の希望も見出だせないまま教習を受ける努力が無駄に思えてならなかった。
今から技能教習が待っているのだが、ひどく憂鬱であった。また傲慢な鬼教官に怒鳴られながらハンドルを切ることになるのだろう。
『何度言ったら分かるの! あんた、ほんとに物覚えが悪いわね!』
しかし教官の言う通りである。その証拠に、私と同時期に入学した生徒は一人残らず卒業してしまった。
花曇りの空を仰ぎ、肺に空気を溜めてからゆっくりと息を吐いた。
私が通っている教習所は、一人の生徒に対して専属の教官がついた。教官によって指導が変わると生徒が混乱するため、そういった方針をとっているそうだ。
お陰で今日もまた、精神的な苦痛を味わいながら傲慢な鬼教官と乗車することになる。それだけで死ねる思いだ。
泣きたくなったら、いっそ教官の目も憚らずに泣きわめいてやろうか。桜の木もはらはらと涙を落としているではないか。
朝起きてから何度目かの溜め息を吐こうとした。その時である。
最初のコメントを投稿しよう!