《ひとりぼっち》

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 ショッキングなその内容だけにでなく、それをまるで他人事のように淡々と、無表情のまま山女が話すからだ。 「父親は俺を捨てて再婚した。新しい家族もいるから俺とは住めないと、祖母に俺を預けた。あの日から俺の家族は、この世で祖母ただひとりになった」  山女は後ろに重心をずらすと、尻餅をついてそのまま脱力し、ぐったりと項垂れた。    志水は両手を使って、なんとか痛む身体を起こす。覗いた山女の顔は憔悴しているようにも見え、その姿があまりにも儚げに志水には思えた。 「志水の言う通りだ。何も楽しくなんかないよ。この世のどこかにあの人がまだ生きているなら、幾らでも借金して買いに行くよ……」  そう言って、項垂れた頭を両手で抱えると、曲げた膝に肘をついて丸くなり、苦しみを吐き出すように声を漏らして震えていた。  山女の悲痛な心の叫びを聞き、志水はその震える頭を子供でもあやすみたいに優しく撫でた。山女は一瞬驚いた目をして頭を上げたが、すぐに辛そうに顔を歪めた。  そして、力強い手で自分から志水を引き寄せると、ぎゅっと華奢な身体を腕の中に抱き込んだ。 「志水……俺……。本当にひとりぼっちになっちゃった……」  山女の声は先ほどの怒りとは正反対に恐ろしいほど弱々しく、叩けば簡単に割れてしまう、水面に張った薄い氷のようだった。     
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