《ひとりぼっち》

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「ひっ、山女は、クリス、マス……好き……? うっ、俺、は両親が揃って……た頃までは好きだったなぁ、ケーキも食えるし、プレゼントだって貰えた……」  何かに引っかかったのか、山女は一瞬指を止めた。だが、またすぐに動き始める。志水はそれでも話し続けた。 「7歳が最後、かな……あの日、親父は帰ってこなくて……ケーキもプレゼントもあったけど……母親はずっと泣いてて……。親父は俺たちを捨てて、出てったんだって言われた……」  今度こそ山女の手が完全に止まり、離された両足がばたりと力無く畳に落ちる。志水は痛みから解放され、安堵の溜め息を一つ零すと、滲んだ瞳のまま天井を眺め、ぼんやりと話し続けた。 「──俺にとって……あの日からクリスマスは苦くて、最悪の想い出になった……」  ふと山女は、ケーキを前にして微笑む去年の祖母の姿を思い出す。山女にとって家族と最後のクリスマスは暖かくて、優しい想い出だった。何度だって見ていたい夢のように柔らかだった。 「──次の年のクリスマスには、他人の男が家にいた……。そいつが来ると俺は家に入れなくて、3駅先の図書館まで歩いてって、閉館まで粘って、そのあとは近所の公園で時間を潰した……。あれは本当に寒かったなぁ……」  鮮明にそのシーンが蘇るのか、志水の涙は限界値を超えても尚、その頬をどんどん濡らしていく。     
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