90人が本棚に入れています
本棚に追加
/17ページ
「──色んな男がいた。優しい兄貴みたいな奴もいれば、俺の存在をただ疎ましく思う奴、いきなり殴る奴。今居るあいつも……すぐキレて、殴る。俺はこんなガリガリでチビだから簡単にのされちまう。こんな風に、お前にもな」
志水はククッと喉で笑った。力無いその肢体は確かに痩せていて、年相応のものと呼ぶには余りにも華奢で、ひどく細く思えた。
山女は志水が家庭で何を受けているのか漠然と理解した。会った時に話していた「困っている」とは、この事だったのだ──。
「──なあ、山女。お前、俺に聞いたよな? そんな生き方、楽しいのかって……」
山女は声で返事せずに、小さく頷く。
「──どう? 俺はお前から見て楽しそうに見えるか?」
それまで天井を仰いでいた志水は、薄く儚い笑みを浮かべたまま山女を見た。
それは決して幸福からくる笑顔ではなく、すべてを諦めた、絶望からくるものだった。
──ようやく山女は口を開いた。
「俺は、中学校入学と同時に、母方の祖母に引き取られた。家族がまともに機能していたのは小学校の途中くらい迄で、その頃から父は、何かで腹を立てるとすぐ、俺を殴るようになった。母は俺を必死に庇い続け、次第に心を病み、父と俺に『ごめんなさい』と、何度も何度も謝り続けて、毎日、泣いて──最期は呆気なく自殺した」
志水は完全に言葉を失っていた。
最初のコメントを投稿しよう!