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祈るように様子をうかがっていると、ドア越しに奇妙な物音が聞こえてきた。
外ではなく、室内に誰か人の気配がある。
さすがに勝手に上がり込んでくるような友人はいないはずだ。
それに一切声はなく、ガサガサとあさるような音ばかりがしていた。
――まさか、泥棒?
さてはさっきのインターホン、留守であるかどうかを確かめるためのものだったか。
そういえば、窓は網戸になっているはずだ。
それに昼間からトイレにいるので、室内は電灯もついていない状態。
その上隣人も留守となれば、空き巣に目をつけられても不思議はない。
――こんなことがあるのか。よりにもよってこんな時に。
泣きっ面に蜂、弱り目に祟り目、まさに踏んだり蹴ったりだ。
目の前で自分のものが盗まれようとしているのに、どうすることもできない。
おそらく侵入者は空き巣のつもりで入ってきたのだろう。
何か物音でも立てれば、驚いて逃げていくかもしれない。
しかし、もしも強盗のようにたちの悪い相手だったらどうする。
ドアをこじ開けられ、トイレの中から引きずり出されたとして、脱出できたと喜べるわけもない。
あるいは、閉じ込められているというこの状況を気付かれれば、チャンスとばかりにあざ笑いながら部屋をあさり始めるかもしれない。
ギリギリまで追い詰められた私の頭の中はぐるぐると回っていた。
これまでの人生の中で、一番脳が活動しているかもしれない。
走馬灯のように駆け巡る様々な想像が、火花を散らすように交錯する。
その激流の先で、唐突に、コペルニクスがほほ笑んだ。
そして……。
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