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4:スノードロップ
面倒事は大体私私私私私私。
右手に草刈用の鎌を握りながら渡り廊下を歩いていた。それなりの広さの中庭全て、草を刈ることなど一人で行うことではない。もういっそこの鎌で、草でないものを切る勇気があったら…。
ぼんやりと理由なく手のひらを眺めながら中庭へ向かっていた。こんな時にはより深く広く、黒く渦巻いていた。
ひどく居心地が悪いそれが一瞬で色付いた。
彼だ。
丁寧に雑草が刈られた中庭の中央に、彼はいた。その瞬間だけ切り取られたかのようにスローモーションで感情が心を駆けた。ゆっくりと振り向いた彼は両手になにか持っていた。何も言えない私の心情を察したのか彼から口を開いた。
「あ、ほら、これ落としちゃってさ。見つけるがてら草が邪魔だから、刈っといた。」
蒼い馬のストラップをポッケから乱暴に取り出して、人差し指と親指で摘んで揺らした。
敢えて触れなかった。嘘に決まっているから。
「……ねぇ帰りのSTから10分も経ってないよ。いつやったの?」
「ん?今。俺さ、いっつも鎌使ってるから慣れてんだ。」
「……おうち、農家だっけ…?」
「ほら。これやるよ。」
乱雑に左手から渡されたそれは一輪の花だった。それは白く透き通っていて美しい曲線と深い緑が、力強くも儚い花だった。
しばらくその俯いた白を眺めてると彼が放った。
「俺からの贈り物。スノードロップって言うんだ。これの花言葉、すげえいいんだぞ。」
玄関へ歩き出す途中、ふと思い出したように振り返って彼は付け加える。
「とにかく、こんな事良いから。お前には早く帰って貰わないとさ。」
初めての感情だった。頷いて去っていく彼の背を見つめることしか出来なかった。
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