4:スノードロップ

1/1
前へ
/6ページ
次へ

4:スノードロップ

面倒事は大体私私私私私私。 右手に草刈用の鎌を握りながら渡り廊下を歩いていた。それなりの広さの中庭全て、草を刈ることなど一人で行うことではない。もういっそこの鎌で、草でないものを切る勇気があったら…。 ぼんやりと理由なく手のひらを眺めながら中庭へ向かっていた。こんな時にはより深く広く、黒く渦巻いていた。 ひどく居心地が悪いそれが一瞬で色付いた。 彼だ。 丁寧に雑草が刈られた中庭の中央に、彼はいた。その瞬間だけ切り取られたかのようにスローモーションで感情が心を駆けた。ゆっくりと振り向いた彼は両手になにか持っていた。何も言えない私の心情を察したのか彼から口を開いた。 「あ、ほら、これ落としちゃってさ。見つけるがてら草が邪魔だから、刈っといた。」 蒼い馬のストラップをポッケから乱暴に取り出して、人差し指と親指で摘んで揺らした。 敢えて触れなかった。嘘に決まっているから。 「……ねぇ帰りのSTから10分も経ってないよ。いつやったの?」 「ん?今。俺さ、いっつも鎌使ってるから慣れてんだ。」 「……おうち、農家だっけ…?」 「ほら。これやるよ。」 乱雑に左手から渡されたそれは一輪の花だった。それは白く透き通っていて美しい曲線と深い緑が、力強くも儚い花だった。 しばらくその俯いた白を眺めてると彼が放った。 「俺からの贈り物。スノードロップって言うんだ。これの花言葉、すげえいいんだぞ。」 玄関へ歩き出す途中、ふと思い出したように振り返って彼は付け加える。 「とにかく、こんな事良いから。お前には早く帰って貰わないとさ。」 初めての感情だった。頷いて去っていく彼の背を見つめることしか出来なかった。
/6ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加