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 不安な夜に布団にこもり頭を抱えて眠りにつけば、起きても夜が明けておらず、あまりに無音なものだからもう一度眠りについた。  次に目が覚めた時も深い夜で、ベッドに居るはずの私の体はベッドにあるのだが、あたたかな感触もあるのだが、見開いた目では何も見えず。耳を塞いでいた両腕を離してみたところ、やはり何も聞こえず、私は「あ」と声を発してみようとしたが、喉仏が動いた瞬間、暗闇に吸い込まれて私の耳に届く前に消えてしまった。  口を金魚のように動かしてみて、両腕を再び耳に当てて横向きに寝転んだまま布団のなかを漕いでみた。漕いでみた。漕いでみた。  今、私は進んでるのか止まっているのか回転しているのか、正しく確認する術を持たず、ひたすらに足を回している。まばたきは意味を成しているのか。目が渇いた感覚はあれど、何も見えないので、そのうち目を開いてるのか閉じているのかわからなくなってくる。布団のなめらかな触感だけが私を包み込み、この世界を作り出していた。  ここから抜け出したくて、とりあえず水でも飲みに行こうと羽毛布団を捲り上げ、何にも包まれることのなくなった私は上半身を起こして三百六十度見渡してみたが、何も見えない何も聞こえない何も私を確認できるものはない。しかし、ベッドで寝ていたはずなので、足をベッドの際まで寄せて床へ下ろそうとした。  はて、ところで、ここは本当にベッドの上だろうか。何も見えない、何も聞こえないこの場所は。今の間で唯一知り得た情報は、布団と思しき物体の柔らかさだけである。それ以外は、全く認識できるものがない。あ。あ。あ。と声帯を震わせてみるが、聞こえない。  尻の下で、ベッドの骨組みの軋む感触が伝わる。私の動きに沿ってシーツが流れる。服は、着ている。だが、自分という個を認識できるものが見当たらない。  私は怖くなり、ついさっき捲り上げた布団を手探りで見つけ出すと、頭からかぶって丸くなった。間違いない。私は起きてしまったのだ。しかも、寝ぼけ方も相当にひどい。こんな夜中に意識が浮いてきてしまっているとは、明日、いや、今日? 今日の仕事に遅刻をしてしまう。
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