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第三)絶望と希望
家に着くと母が心配そうに迎えてくれた。私は自分の部屋で父に聞こえないように母に真実を伝えた。
ガンだと聞いた母はあまりのショックに一瞬固まっていた。だがすぐに私に『お父さんは知ってるの?』母のこの一言で私は父に正直に話してしまったことを本当に後悔した。なぜ嘘をつけなかったのか。母の様子に怯えながら、ボソボソと話した。案の定、母は言った。『なんで本当のことお父さんに話したの?これでお父さんが治療しなかったり、絶望して何するかわからないんだよ!』
私はまるで見えない母のビンタを浴びせられたかのような感覚になった。帰りの電車でこのことがぐるぐる私の頭の中を巡っており、怖かった。母に突き付けられた真実に私は絶望を知った。このとき心から父に(お父さん…ごめんなさい。気の利かない娘で本当にごめんなさい。)
私は酷く後悔しながらなんとか挽回しようとするかのように母に、父の反応や治療に対する姿勢を話した。至って前向きであると。これには母も半信半疑だが今はこれを信じるしかなかった。この一筋の希望が私達家族を支える唯一の光だから。
夜になり兄が仕事から帰ってきてやはり母のように私に検査結果を聞いてきた。私は母に話したように兄にも話した。兄からは意外な言葉が返ってきた。『お父さんに話して正解だよ。治療するのはお父さんなんだからいくら騙してもいつかわかるよ。その時のほうがショックで治療やめちゃうかもしれない。』確かにそうかもしれないとも思った。母もそう感じたようだが、納得しきれていなかった。これも解る。なぜなら正解なんてないからだ。父にもどちらが正解かなんてきっと本人も解らないだろう。
ここから私がずっと父と一緒に病院行くことになった。私と父の二人三脚の闘病の始まりだった。
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