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ジャックは、手にした鉄パイプを頭上高くに振り上げる。
狙いはただ一つ、人としての死を受け損なった哀れ且つ半端な骸の、その頭だ。
「寄るんじゃ……ねぇよ!」
渾身の力で振り下ろされたそれは、前頭部に衝突。
衝突箇所の骨格は陥没し、守護していたはずの脆き中枢が崩れ、吹き出す。
澱んだ瞳からは真紅の穢れが溢れ出し、続いて鼻腔から、そして口腔からもそれは漏れ出していく。
死に損ないであったその体は今、ようやく完全な死を迎える。
ビクリ、ビクリと辛うじて動くだけの物体は最早、命ある存在とは言えない。
「とにかく、こんな道路になんていたらいつかは食われて仲間入りか。安全な場所を……って、あるのかそんなもの」
辺りを見渡しても、どう考えても危険だとしか思えない場所しか映らない。
しかし、棒立ちしていては少しずつ接近しつつあるゾンビの群れに食い殺されるのみ。
「探すしかないが、いつまで持つかな。……オラァ、退けよゾンビが!」
眼前に迫るゾンビの側頭部を鉄パイプで殴り飛ばし、転倒させる。
首が折れることも、先ほどのように頭骨を砕くことも無かったが、一時的な無力化には成功した。
同じようにやれば、まばらな状態であれば道は切り開けるのだろうが、走りながらこれを続けるのは体力の消耗が激しく、いずれ力尽きるだろう。
「……そうだ、銃があれば多少は楽になる。だが道端に落ちてるようなモンでもないし、となれば狙うのはまず一つ」
場所探しに向けていた目線を、ゾンビ一体一体に向ける。
狙う対象は、彼らの中にあるらしい。
「……見つけた。まだカミサマとやらは、俺を見捨ててはいなかったようだ」
目線の先には、警察官のゾンビがいる。
ジャックの狙いは、彼らが装備している銃だ。
彼は一直線に突き進む。
間に立ちはだかる死体は全て打ち飛ばす。
少しずつ狭まりつつあるゾンビ同士の間隔と、自身との距離に恐怖を感じながらも、今現在最大且つ唯一の希望へと、彼はがむしゃらに進んだ。
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