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その後、街の至る所でサルが目撃された。
捕獲に向かった警官が負傷する、集団に襲われた市民が瀕死の状態で救助されると少しずつエスカレートしていき、そしてついにはホームレスが一人、殺害された。
「酷い有様だな、ジェイコフ。抵抗する間も無く、引き裂かれたって感じだな」
通報を受けて駆けつけた警官が、周囲を調べている。
顔面の皮はほぼ全て引き剥がされ、四肢は骨が見えるまで食い散らかされ、胴体は爆破でもされたかと思うほどに悲惨な状態だ。
「ヘンリー、これはただ事じゃないぜ。市民に外出を禁止させた方がいい」
「お前もそう思うか、ジェイコフ。さっきのガキ共、無事に帰れたんだろうな」
二人を含め、周囲の人間は例外なく恐怖を感じている。
得体の知れない何かが起き始めている、それも自分達の手には負えないほどの、強大な何かが。
「これは応援を呼ぶ必要があるな。ただ単に猛獣が出た、そんな話では済みそうに無い」
「それをするのは上の仕事だが……上は何だって言って応援を――」
言葉を紡いでいたジェイコフは、その光景を前にした時、一切の思考が止まってしまった。
死んでいたはずのホームレスが、上体を起こしている。
そして足を動かし、立ち上がろうとしている。
「どうした、ジェイコフ」
「へ、ヘンリー!う、うし、後ろォ!!」
ヘンリーが後ろを振り返るより早く、ホームレスは完全に立ち上がった。
そして振り返ると同時に、その崩れかけた両腕はヘンリーの肩を掴んでいた。
「……え?」
ヘンリーは完全に呆気に取られ、ジェイコフは腰を抜かしている。
そのホームレスはというと、紅に染め上げられた口を開き、ヘンリーの頚動脈に喰らいついた。
「っ……」
「へ、ヘンリー!ヘンリィィィッ!!」
食い千切られた頚動脈からは鮮血が迸り、ホームレスはその肉を咀嚼する。
ヘンリーは傷を抑えることも出来ずその場に倒れ、絶命した。
「ば、バカな!なんだこれ、何が起きてんだ!」
ジェイコフは、少しずつ後ろに下がることしか出来ない。
腰にぶら下げている拳銃のことなど、完全に忘れてしまっているようだ。
これまでの事象を目にしている警官は、他にも複数人が居た。
だが何が起きたか理解できる者など居るはずもなく、呆然と眺めている間にヘンリーは立ち上がり、誰かが銃を抜く前に彼はジェイコフに喰らいつく。
地獄が、始まった。
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