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晴臣の部下と秘書は、この十日間を振り返って溜息を吐いた。
最初の五日間は地獄だった。
機嫌が悪いなんてものじゃない。怖くて近くに居られなかった。
朝、出社して来るなり調査会社に張り込みを命じ、一日中気が立っていた。
それからの五日間。
ずっとそんな状態が続いて、死ぬかと思った。
それが六日目の昼頃、遅い出社をして来た頃には信じられない程に機嫌が治っていた。 時々、不気味にも思い出し笑い等が混じったりして、それはそれで別の意味で恐ろしかった。
今日も上機嫌はまだ続いている。
この二日程は何か企んで居る様で、彼の恐ろしさを知っているだけに皆、静かに見守っていた。
欲しい物は、どんな事をしても手に入れる男、決して逃がした事は無い。
あれから五日間、文月は自分の中の女と戦って居た。誘惑までしてしまった自分を信じられない想いで見詰めた。
晴臣とは身体の関係、それ以上でもそれ以下でも無い筈だったのに彼の事が気になる。 執筆もままならなく為って、不安で堪らない。いっその事、何処かへ旅行にでも行ってみようかと思い始めている。気分転換が必要だと思った。
「そうだ、麻紀を誘ってみよう」
思わず独り言が漏れる。また、二人で飲み明かせると思うと気分が明るくなる。
麻紀に連絡だ。善は急げと思った。
麻紀は文月に本当に申し訳ない事をしたと思って居た。
夏彦大先生の変態振りは承知していたつもりだったが思って居た以上だった、と反省しきりで出版社に帰って来た。
編集長が呼んでいる。
手招きして小声で、来客が待っていると言う。社内のスタッフが緊張しているから誰だろうと思った。
「お前、何を遣ったんだよ。オーナーが会いに来るなんて、余程だぞ」
編集長が怯えている。
「オーナーて誰ですか。そんな雲の上の人に心当たり無いです」
麻紀も怯えた。
「いいから応接室へ行け」
編集長に追い出される様にして、応接室に向かった。
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