第二章  朱雀夏彦

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 私を穴が開く程見つめた後で、身体中を見て、それから胸を見て・・大笑いした。  この無礼者め。  思いっきり睨み付けてやった。  「なる程、硬い胸の正体が分ったぞ。麻紀の差しがねか、見事に騙された」  また私の胸をじっと見て、失礼にもはっきりと大きな声で宣言する夏彦に、怒りが込み上げる。  「俺の見る処、君の胸はEカップだな。見事な盛り上がりだ」  本当に頭に来た。  思いっきり殴ってやろうと振り上げた手を掴むと、夏彦が桜子を引き寄せて、耳もとで囁いた。  「何回も遣られたりはしない。この間の敵だ」  言うなり、抱き寄せて唇を寄せて来るから噛み付いてやった。  私を離して、唇に指を当てているから、言ってやる。  「女が欲しければ、何時もの様に銀座のクラブに行きなさい。手近な処でなんて、虫が良すぎるわ」  これ以上居ると逆襲されてしまう。此処は撤収あるのみ。  一目散に逃げ出した。  出版社のビルから逃げ出した所へ黒塗りの車が近付いて来て止まり、麻紀が降りて来て後から晴臣まで降りて来るから、私はもう大パニック。  夏彦が追って来たら拙いという思いと、顔を見ただけで恥ずかしい晴臣との板挟み。  「麻紀、待っていたわ。助けてよ。」  麻紀の腕を掴んで歩き出す前に、目の前に晴臣が立ちふさがって進路を塞いだ。  「君に話がある。桜子、僕と一緒に来て欲しい」  もう其れ処じゃ無い。ビルの入り口まで追って来た夏彦が見える。  こうなったら背に腹は変えられない。  「分ったわ」  呟いて、晴臣の腕の中に逃げ込んだ。  突然に腕の中に身を投げ出されて、驚きはしたが、やはり嬉しい。  車に乗せ、ドアを閉めた。  「出してくれ、別荘に連れて行く」  車が走り去るのを茫然と見送る麻紀の横へ飛び出して来た夏彦が、誰かを捜して居る。  「おい、麻紀。あの女は何処に行った。俺は見たぞ。あの文月という女の胸、見事なEカップだった。お前達、俺を騙したな」  麻紀は文月の慌て様が理解出来た。  此奴に追い掛けられていたのか。夏彦を見ると、唇が切れて血が滲んでいる。  「先生、唇をどうしたんですか」  ハンカチを差し出すと、取って唇に当てがいながら悔しそうに呟いた。  「あの女にまた遣られた」  麻紀は爆笑を押えられなかった。  「本当に文月は凄いわ」  笑いが止まらな無い。  横では夏彦が不快感も露わに唸っていた。
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