第2章

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幼い日々を思い出し、クスクスと笑いながら自室まで歩いてきた。 開けっ放しの窓から風が吹き抜け、白いカーテンを揺らしている。 風鈴がチリンとなった。 窓際から匂いがする。 そちらに目をやると、カラフルなボールを見つけた。 小皿の上に乗っている小さなボールは、町屋の香専門店で売られている香り玉だ。 玉の中には白檀や調子などの香木が入っていて、置いているだけで柔らかな匂いがする。 赤と白、赤と黄色など、赤を基調に二色で彩られたカラフルな香り玉はインテリアとして飾っても可愛くて、高校生の私はよくかおり玉を買いに行ったっけ。 私の好きな匂い……町屋の香り玉……お母さん、覚えていてくれたんだ……。 香り玉を一つ手に取って窓際に立つと、緑の柳が彩る石畳の道が見える。 窓から見えるこの景色も、この香りも、すべて、私のものだった。 「ただいま」 私は美しい京都の町に向かってそう言ってから、頭上で揺れる風鈴をチリンとならした。
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