第1章

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「灯里、聞いてる?」 「え?」 「ほら、また聞いてない」 「ご、ごめん」 「まぁ、いいけど。もう慣れたから」 そう言いながら、優しく微笑むのは、恋人の奏(かなで)だ。 長身でスタイルがよく、穏やかな性格の彼。 笑うと切れ長の目尻が少し垂れて、優しい顔つきになる。 私たちは大学のキャンパスで出会った。 東京へ来て二度目の春だった。 こんもりとした小高い芝生の上に立ち、ハラハラと落ちる桜の花びらを見上げる私に、彼が声をかけてきたのが始まりだった。 第一印象、同じ年くらいかな…… そう思っていたのに、話してみると実際は2個上だったことに、ひどく驚いたのをよく覚えている。 私たちは、大学二回生の春から、25歳になった今でも付き合っている。 「今日は何を考えていたの?」
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