第1章

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「場所は?」 隣を歩く彼がそっと言った。 「場所かぁ……」 私は、眉間に皺を寄せて考える。場所を思い出すなんて、考えたこともなかった。 「それもわからない?」 「うーんと」 「何が見える?」 彼が優しく問いかけた。 彼の落ち着いた口調には魔法がかかっているといつも思う。 抱き上げるように、すくいあげるように、私の話を聞いて、時に導いてくれる。 北風がスカートをひらひらと動かしている。雪がちらつき始めた。 夢を思い出したくなった私は、その場に立ち止まった。 そんな私を見て、全てを悟ったかのように静かに微笑んだ奏は、私の手を取り、少し歩いて、誰もいない建物の軒下に身を寄せる。
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