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「え?」
「思い出したくなったんだろ?」
「うん。ありがとう」
そう言ってから、私はゆっくり瞼を閉じた。
息を深く吸い込むと、冬の風が体内の熱を奪っていく。
体が冷やされると、脳内が覚醒するようだ。
指先が冷たくなった頃、夢が映像のフィルムのように浮かんでくる。
景色がゆっくりと色を付け始めた。
伏せた瞼の奥に、夜空から真っ直ぐに落ちるように流れる柳の木が見えた。
柳の木の麓には、サラサラと流れる小川がある。
私たちは、しっとりとぬれた石畳の上に立っていて、どこからかカラコロと零れるおこぼを鳴らす音が聞こえる。
短い橋。
連なる朱色の玉垣。
その奥には、石造りの鳥居……。
そこに立っているのは、高校生の私と、背の高い男の人。
月夜に輝くグレー色の瞳がこちらを見て、
『灯里』
私の名前を呼んだ。
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