未定

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 万松寺通りと新天地通りの交差する一角に、この界隈では立派なお寺、万松寺がある。近所には自社ビルというべきなのか、大きな建物と駐車場を持っている。  この大須の街の中では有名どころの一つに数えられるお寺だ。  その脇にひっそりと営業をしている蕎麦屋がある。  商店街のアーケードの中にあって、古くから営業している蕎麦屋だけに、大須の街の人間なら誰でも一度は店に入って蕎麦を啜ったことがある店、松天屋。  店の店主、浅野勲は三代目の名に恥じぬ昔からの味を大切にしてきた職人だが、四代目になるはずの息子、雅紀(まさのり)は高校卒業してからしばらくは店で修行として働いていたが、当時のアルバイトで名古屋大学に通っていた女性と結婚。二人の息子に恵まれたにも関わらず、他の女に手を出しては三行半を突きつけられて離婚。  当の本人も離婚を機に店を辞めて、どこかへ行ってしまった。  雅紀の妻は実家のある秋田へ二人の孫息子と共に帰郷。夏休みには孫息子達も遊びに来ていたが、今ではとんと足が遠のいている。  浅野勲には他に二人の息子がいるが、次男坊は名古屋市の清掃業者で働き、三男坊は名古屋市市職員として働いている。  その二人とも、家の家業を継ぐつもりは無く、それぞれの職に就いたのだ。 「誰か、他人でもいいからあそこの店を継ぐ人はいないかな」と信吾はポツリと呟いたが、礼之介は、「職人の家を継ぐというのは、そんな生半可なものじゃない」とぴしゃりといった。
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