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「ここ、いいですか?」
信吾は遠慮がちに久枝に聞くと、久枝は屈託の無い笑顔を見せて「どうぞ」と席を勧めると、信吾の前にお水とおしぼりを置いた。
「何にする?」と奥の厨房から勲が声を掛ける。
「信吾ちゃんには今日は大サービス。何でもタダで食わせてやるよ」といって、自らメニューを手に持ってきてくれた。
「えっ、マジで」
「あぁ。礼ちゃんにはこれまで世話に成りっぱなしだったからな。その恩返しだよ」と勲はいう。
「なら、爺ちゃんにあとでお礼をいっておかないと・・・」といいながら、信吾はメニューを受け取ると、「天丼と天ぷら蕎麦。あと、食後にぜんざい」と遠慮せずに注文した。
「おばさん。足の具合はどうですか?いいの?」
「あら、お爺ちゃんに聞いたの?今日はいいけどね。雨が降ると痛くて痛くてね」と両膝を両手で摩る。
「天気の具合で変わるんだ」と信吾はいう。
「そう・・・。店の売り上げと一緒。天気が悪いとお客は来ないからね」
そう久枝はいうが、今日のような春の陽気の日なのに、松天屋には信吾以外、客はいない。
これも、今月中に閉店とした張り紙の影響だろうか。新規開拓に客は走ってしまったようだ。
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