未定

6/10
前へ
/10ページ
次へ
「そういえば。今、店の前に見慣れない若い人が立っていたよ」と信吾は運ばれてきた天ぷら蕎麦に箸をいれながらいう。 「へぇ・・・。信吾ちゃんぐらいの?それとも、子供?」 「いや、どうだろう・・・。俺ぐらいの年かな」鰹節でとった出汁がかえしと混じって独特の旨みを出している。子供の頃から慣れ親しんできたこの味が、あと数日だとは思いたくない。 「誰か、他人でもいいから後を継いでもらえばいいんじゃ?」と信吾はサックリと揚がった天ぷらを頬張りながら聞く。 「それもね、考えたけど。他人様なら尚更、ある程度したらこの店を辞めて独立をする。結局、跡継ぎとはならないと考えてね」 「そうか・・・」  信吾は久枝のいった一言が、前に祖父に聞いた答えの真意だと知った。 「この味を引き継ぐ人、誰かいませんかね」と信吾は、今度は天丼に箸をいれながら聞いた。 「信吾ちゃんなら、継いでくれてもいいよ」と勲が厨房の中からいう。 「いや。俺は作る側じゃなくて食べる側で十分だし。それにほら、自分の店もあるし」 「一緒に、兼任しちゃえば?蕎麦屋となんだ、服屋と」 「お父さん、違うわよ。古着屋」と久枝がいう。 「何が違うんだ?服は服だろう?」
/10ページ

最初のコメントを投稿しよう!

4人が本棚に入れています
本棚に追加