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信吾は食べるペースを速めた。二人のこの会話パターンはこれから先、夫婦の口喧嘩に発展する恐れがあるからだ。
信吾は食後のデザートにぜんざいをもらうと、一緒に出された緑茶を啜りながら甘い物を食べる。
突然、店の入り口の扉が開いてお客が入ってきた。
「いらっしゃい」
久枝が簡易椅子からゆっくりと立ち上がる。両手を膝につけて立ち上がる姿を見ると、どうやら長時間立っていることが出来ない様子だ。
「どうぞ。空いてる席にお座りください」
とうとう、歩いて席を勧める事が出来なくなったようだ。それを見た勲が代わりにおしぼりとお水、それにメニューを持って席に座る中年夫婦の下へむかった。
「お店、閉店するんですか?」と中年の女性の方が開口一番聞いた。
「はい。いろいろお世話になりました」と勲が一言挨拶をしながら頭を下げると、久枝もレジの前で頭を下げた。
ふと、信吾は店の外へ視線を向けた。そこにはさっきの若者が、物陰から店の中の様子を探っている。
信吾の視線に気づいたのか、若者は身を翻して立ち去った。
その日。信吾は祖父にその事を話すと、「居抜きで店をやろうと考えている者か、或いは、不動産関係かアンダーソン&ジェフリースの者じゃないか」といった。
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