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松天屋が閉店した。
信吾は店を片付けているはずの二人に最後の挨拶をしに店に来た。
しかし、店の中の様子がおかしい。見慣れない中年男性と、あの時、店の前に立っていた若者がなにやら、店の中で寸法を測っている。
「外装も含めて、新しくしよう。あそこに、座卓方の囲炉裏をおきたいのか?」と中年男性が若者に聞くと、青年は「うん」と答えた。
「おじいちゃん、構わないよね?」と青年が奥に声を掛けると、不貞腐れた勲が厨房の中を片付けながら、「好きなようにすればいい」と言葉を返す。
信吾が遠慮がちに店に入ろうとした時、後ろから久枝が「信吾ちゃん」と嬉しそうな声を掛けてきた。
「おばさん。あれ、誰ですか?」と信吾が店の中を指差すと、久枝は嬉しそうに「良太よ。それと、ウチの馬鹿息子」と答えた。
「えっ!良太」
その信吾の声が聞こえたのか、店内にいた青年、良太は振り向くと、信吾の姿を見つけるなり笑顔を見せながら「久しぶりだな、信吾」と入り口に向かって歩いてきた。
「お前、本当に良太か?」
「そうだよ」と良太は笑顔を見せながら、右手を差し出した。
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