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「それお弁当ですか?先生呼んできましょうか?」
「あ、いや。その……や、呼ばなくて、も大丈夫」
女子高生相手にしどろもどろなんて情けない。
「届けましょうか?先生喜びますよ?きっと。ねぇ」
うんうんと取り囲む子達がそれぞれ頷く。
「あ、や……でも、悪いから」
「先生、きっとそのお弁当食べたら機嫌も良くなるから、私たちも助かりますし」
今度はちらほら苦笑い。
「実は今朝から機嫌悪いんです、先生」
「……」
元はと言えば私のせいだ。
大事な試合前に本当に申し訳ない。
礼人も何やってんだか、大人気ない。
「そうそう。朝来るなり、決勝勝てないなら準決勝も負けろ、とか言ってたよね」
「負けろとか、顧問が普通言う?」
三年生だろうか。その子が笑うと安心したように他の数人も笑っていた。
「さっきの試合、凄かったね。次も、頑張ってね」
ごめん、決勝見たら、別れてとか言われても断れないような気がする。
「……あの、お弁当」
「ああ、これ。どうしよう……そんなに、機嫌、悪いの?」
少女達が気を使い、顔を見合わせながら苦笑い。
「火に油、注いだら、ゴメンね」
先に謝ってから、託す。
「試合、頑張ってね」
これは本心。
礼人の為にも、どうか、どうか負けないで。
気持ちを込めて、後ろ姿にそっと手を振った。
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