0人が本棚に入れています
本棚に追加
◆おもいでばなし
その人を初めて見た時の印象はただひとつ。
(あ、メガネ)
他はさっぱり、記憶にない。
「おう、土産やぜ」
カンカン帽に着流し姿。それがいつもの彼のスタイル。
「あ、庄川さん」
庄川と呼ばれた青年は、幼く見える少年と少女、二人の頭をちょっと乱暴に撫でて、ほら、と使い古された魚籠を投げて寄越した。
「わ、わ……あ、鮎だ」
「ほか、もうそんな時期やったっけ」
夏のほんの少し前、庄川では鮎漁が始まる。
「今頃神通もはしゃいどんがやろうぜ。あのっさん、鮎ん時ばっかしはおもしいくらいテンションあがっとっからいね」
けらけらと笑う長身の青年がカンカン帽を脱ぐと、短く刈った薄茶色の髪が日の光を浴びてキラキラと光るようだ。
その様子をじっと見つめるのは少年。
「? どしたんけ、松川。わしの頭、なんか付いとっけ?」
視線を感じ、自分の髪をさわりと撫でる庄川に、松川はなぁん、と小さく答えた。
「なんでもないながやけど」
けど、と続けて。
「いっつも思うがやけど、初めて会うた時と、庄川、全然イメージちごとんもん」
「は?」
そうぽかんとした声を返す庄川と、そのやり取りを不思議そうに見る岩瀬。
最初のコメントを投稿しよう!