のちはいつ

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◆おもいでばなし その人を初めて見た時の印象はただひとつ。 (あ、メガネ)  他はさっぱり、記憶にない。 「おう、土産やぜ」  カンカン帽に着流し姿。それがいつもの彼のスタイル。 「あ、庄川さん」  庄川と呼ばれた青年は、幼く見える少年と少女、二人の頭をちょっと乱暴に撫でて、ほら、と使い古された魚籠を投げて寄越した。 「わ、わ……あ、鮎だ」 「ほか、もうそんな時期やったっけ」  夏のほんの少し前、庄川では鮎漁が始まる。 「今頃神通もはしゃいどんがやろうぜ。あのっさん、鮎ん時ばっかしはおもしいくらいテンションあがっとっからいね」  けらけらと笑う長身の青年がカンカン帽を脱ぐと、短く刈った薄茶色の髪が日の光を浴びてキラキラと光るようだ。  その様子をじっと見つめるのは少年。 「? どしたんけ、松川。わしの頭、なんか付いとっけ?」  視線を感じ、自分の髪をさわりと撫でる庄川に、松川はなぁん、と小さく答えた。 「なんでもないながやけど」  けど、と続けて。 「いっつも思うがやけど、初めて会うた時と、庄川、全然イメージちごとんもん」 「は?」  そうぽかんとした声を返す庄川と、そのやり取りを不思議そうに見る岩瀬。     
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