試し読み

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◆ 大陸の北部の多くを占める魔術国家・ローエルンディアの中心にある宿場街、名をウィットランジと言った。そこは旅の人々が必ず訪れる主要な街でありながら都市と呼ぶには少し素朴で、今日も街を囲うように広がる小麦畑の黄金が、決して物々しくない白い漆喰 の外壁を彩っている。 そのウィットランジを東西南北に分断するメインストリートが交わる中央広場には、旅を司る神・ヴォヤッセールの姿を模した石像が豊かに湧き上がる地下温水を背負った荷物の口から噴き出させており、今日も旅人達を癒す噴水型の足湯として彼らを見守っていた。 その中に、ひとり。 「はー……、生き返るう」 湯に浸した足を飛沫があがらない程度にばたつかせ、大きく息を吐きながらそうもらす少女がいた。街の外に広がる小麦畑のように暖かな黄金の髪は肩のあたりでまばらに切り揃えられており、冬には早いがホーンコーンの厚く暖かい革で作られた膝まで隠れるマントを纏っている。その表情はこぼした言葉の通り心底幸せそうにとろとろに蕩けていた。 「顔」     
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