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遠くに祭囃子、参道に並んだ提灯と屋台。
俺は、薄暗い杜の中にいた。
頭がぼうっとして、何も思い出せない。
「兄ちゃん、どないしたんや。」
不意に背後から声をかけられ、心臓が飛び上がる。
振り返ると、そこにぽつんと屋台があった。
25歳くらいの派手な格好をした、愛想の良い男が店番らしい。
看板は「思い出屋」とある。
「思い出屋って、何です?」
「そのまんまや、思い出を売り買いさせてもらってるんや。」
「…思い出を?どうやって?」
「やってみるか?」
男の笑みに薄気味悪さを覚え、俺は首を横に振り、慌ててその場を立ち去った。
「毎度あり」
気のせいだろうか、男が小さく言ったのが聞こえた。
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