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こんなことがありました。 高校三年生の、英語の授業。 しょうもないこと。なんでもないこと。そんなことは簡単。他人から見ればそんなもの。 英文を日本語訳にしなさい。 口頭で答えなければいけない質問だった。私の前の席の子が当てられた。その子は「う~ん」という考えるそぶりをみせた。直接的なことは何もしなかった。それを悟った先生はじゃあその後ろ、というように私をあてた。 予習はしていた。でも、わからなくて空白にしていたところだった。 私は固まった。下を向いた。嫌な汗をかいた。考えると無理だった。 もしかしたら、とても簡単な問題だったかもしれない。 考える素振りはみせた。そう思う。 何か言わないと、何か言わないと、何か言わないと。言うべき言葉はわかっていた。それを言うことでクラスが馬鹿にしたりしないこともわかっていた。全部全部わかっていた。 「わかりません」 そう言えば済む話だった。 でもそれが出来なかった。たったそれだけなのに。出来なかった。私には高等技術だった。頭ではわかっているのに、声が出なかった。冷や汗ばかりかいた。朝起きるところからやり直したかった。途中からはもう諦めた。私には無理だ。もういいや。また恥をかくだけだ。誰も何も言わない。私が傷ついて少し雰囲気が悪くなるだけ。学校だけじゃない。私の居場所は他にもあるし。そんなことばかりを考えていた。汗は止まらなかった。
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