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上手く説明は出来ないし、確固たる根拠もない。 だけど、“もう一人”も何かが違っていると思った。 例えば、身体から香る微かな煙草のニオイや、トイレに行く時までスマホを持って行ったり、味付けに一切口を出さなかったのに「薄い」と言ってみたり。 漠然とし過ぎているけど“何か違う”と思えた。 唯一変わらなかったのは夜だけで、以前と同じ体育会系な秘め事は“私が知っている駿”だった。 けれど、身体と気持ちが上手く噛み合っていないように感じた。駿もそうだし、何よりも私自身がそうだった。 “アンタがあいつに抱かれてるのを想像したら気が狂いそうになる” 冬馬さんが放ったあの言葉が離れない。そして私の思考回路を通って出てくる答えは一つ。 冬馬さんは私を好きなんじゃないか。 自惚れんなと言われたらオシマイだけど。 冬馬さんには理子がいる。 私に駿がいるように。 互いに恋人がいるというのにああやって食事をすることがやっぱり良くなかったんだ。 捨て犬に情が湧いてしまえば突き放すのは難しい。そうなる前に何か手を打たないとダメかもしれない。
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