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ダメ元でかけた電話は運良く駿に繋がった。 ただ電話の向こうはガヤガヤと騒がしく、「悪い!ちょっと外すわ!」と誰かに叫ぶと場所を移動したようだ。 「ごめんな、どうした?」 お酒でも飲んでいたのだろうか。酔った時のように高いテンションの駿にお金に関する話はいささか不安だけど、 「こっちこそ忙しそうな時にごめんね」 こういうことは早く解決させたい。 「あのね、家賃のことで駿に聞きたいの。引き落とし出来ませんでしたって手紙が来たんだよ、今日」 私は、自分が振り込む分の金額は間違いなく入金した。引き落としが出来なかった原因は駿しか考えられない。 ガタン、と椅子を引く音がした。 振り返ると冬馬さんは無表情のままこちらに近づき、何も言わずぽすんと私の隣に腰かけた。 この距離じゃ駿の声も冬馬さんに聞こえてしまう……いや、たぶん冬馬さんは、駿の言い訳を聞きに来たんだ。 「あー……」 電話口の高かったテンションが明らかに下がった。そして、その反応から、駿は8月分が未入金だということを“わかっている”んだと察した。 「駿?」 「いやー、忙しくって入れに行く暇なくてさ」 私たちの会社のお給料日は毎月25日で、引き落とし日は5日だ。お給料が出てもなかなか日中に行くことが出来ないのなら相談して欲しかったし、先日帰って来た時に“入金出来ていない”と言ってくれても良かったじゃないか。 「どうして黙ってたの?」 「忘れてたよ。ほんっとごめんな。18日、俺がこっちに帰って来た日には入れておいたからさ、それでどうにか支払っておいて」 「……」 「次はきちんと時間作るし、ちゃんとするから」 「駿、あのさ……」 「あ、悪ぃな、呼ばれたわ。じゃ、またな」
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