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呆気なく終わった電話。
気まずいし、やるせない気持ちが湧く中、バッチリ目が合った冬馬さんと互いに苦笑いしあった。
「なんか、変な話聞かせちゃった」
「そんなことないって」
「お金に関してはしっかりした人だと思ってたんだけどね」
「誰にだって忘れちゃったり間違ったりすることはあるさ。許してあげなって」
「うん」
「あー、千夏は許すけど忘れないんだっけ?」
「まだそれ言う?」
「言っただろ?引きずりたいって」
ケタケタと笑う冬馬さんにつられて私もふっと頬が緩んだその時だった。
痛い、と思った時にはもう私の身体は冬馬さんの腕の中で、顔は胸元に押し付けられて息が苦しいくらい……。
「ちょっとやめ……」
抵抗しようともがいても跳ね返せないほど強い力で抱き締められていて、「離してよ」という声も冬馬さんに吸い込まれるだけだった。
「辛いよなー、千夏」
「……大丈夫だから、もう」
「金はさー、まぁ、どうにかなったかもしれないけど」
「……」
「あれはキツイわー」
「あれ、って?」
「あんな言い方しなくても、ねぇ?」
「だから何のこと……」
「帰ってくるのはこの場所だけじゃねぇの?」
「……っ!」
気づいてた?
さっきの駿の……。
“こっちに帰って来た日には入れておいたから”
もう駿の中で向こうが「居場所」になっているんだ。
無意識下で出た言葉ならなお一層、駿の本心なんだよね。
言い返すことも指摘することも私は出来なかった。
くだらない、と言われるのが怖かった。
そうだよ、と言われるのが怖かった。
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