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「千夏?」 「……何?」 「チューしていい?」 「何を言って……」 「だってこの姿勢だとやっぱそうするのが自然な流れじゃん?」 「しません。というか、離してよいい加減に」 「離したくなーい。手がくっついて取れなーい」 「……ご飯抜き」 「おっ?さっきまで取れなかった手が離れたぞ!不思議だ!」 「……ばーか」 こんな風にふざけてくれるのは、たぶん冬馬さんの優しさなんだろう。 その後、もう少し飲もうかと2人で缶ビールを数本空けた。 サラリーマンってのは大変だね、と冬馬さんが言ったのをきっかけに、お酒の勢いも借りて、この夜初めて冬馬さんに職業を尋ねた。 「これ知ってる?“あなたーのまちのースマイルスマイル住まいる住建”」 「わ、懐かしい!」 「あのCMで子供がさ“僕んちは住まいる!”って言ってたの覚えてる?」 「あー、住まいる坊やね!あの子可愛かったよねー」 「あれ、オレ」 「……は?」 「子役時代の、オレ」 「え、冬馬さんって……」 「あの頃がピークの、今はパッとしない役者だよ」 売れない役者の恋人を支える女性。それを冬馬さんと理子に当てはめると妙にしっくりとした。
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