*8*

10/22

528人が本棚に入れています
本棚に追加
/143ページ
「ごちそーさん。おやすみー」 ホロ酔いで隣に帰って行く背中は相変わらず丸まっている。 「ありがと!」 缶を入れたビニール袋の口を縛りながら短くお礼を告げると、ヒョイと左の手を挙げてすぐにヨレヨレのスウェットに突っ込んだ。 「鍵かけろよー」 玄関で叫んだ声は廊下を通ってよく響き、キッチンにいる私までしっかり届いた。バタンと閉まったドアの音が聞こえ、言いつけ通りに施錠をしに行くと、いつもの鼻歌がドアの向こう側から微かに聞こえてきた。 謎だった久住冬馬という人物は役者だった。 ひょっとしたら今まで見てきたあの泣きそうな顔も演技だったのかなと過ぎったけど、どこまでが嘘でどこからが本当かなんて、今の私には大きな問題じゃなかった。 振り込み先の確認をし、自分名義の通帳の残高を睨みながらため息をつく頃にはそんなことはすっかり頭から消えていた。
/143ページ

最初のコメントを投稿しよう!

528人が本棚に入れています
本棚に追加