告白

3/4
前へ
/4ページ
次へ
「良かったら、サークルに入りませんか?」 ナンパ等ではなく、単なるサークルの勧誘だったが、私に話しかけてくれた事がすごく嬉しかったのを覚えている。 「はい、喜んで」 居酒屋の店員みたいに元気に返事した私に、先輩の方が驚いていた。 「本当に入ってくれるの?」 「はい」 『はい』を繰り返す私に、先輩は嬉しそうに笑ってくれた。 入学式から10日間何人にも声をかけたが、入るって言ったのは私一人だったらしい。 先輩には慣れた一言だったかもしれないが、それは私にとって奇跡とも思える瞬間で、ボサボサ頭の冴えない先輩がまるで王子さまのように眩しく見えたんだ。 「じゃあ、早速部室に案内するよ」 部室?と思い貰ったビラを見ると、『仏像研究会』の文字。 仏像には全く興味はなかったが、自分の居場所が出来た気がして、私は休まずに3年間サークルに通い続けた。 仏像の魅力を熱心に語るメンバーの言葉を聞きつつ、私は常に先輩を意識していた。 ボサボサ頭だった時から先輩は私の王子さまだったが、就職活動のために髪を整えて眼鏡も買い換えた先輩はますますかっこよくてドキドキする。 『付き合いたい』なんて無謀な願いはとっくに諦めていて、せめて側にいられれば……とそれだけを願っていた。 けれど、それも終わる。 後2週間で、先輩は卒業してしまうから。 仏像サークルでは毎年卒業生を送るために日帰り旅行を行っていて、今年は『奈良の大仏見学ツアー』だ。 それで先輩とは永遠にさよならしなければならない。 私は泣きそうになるのを、ぐっと押さえた。
/4ページ

最初のコメントを投稿しよう!

6人が本棚に入れています
本棚に追加