風船

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あれから、次の日には家を出た。 大きな荷物は無かったし、細々したものは今度ということになった。 しばらくは、実家暮らし。 実家と言っても、両親が店をしていて、その上のアパートも持ってるからそこに少しの間だけ。 家にいる気もしなくて、外に出た。 今日は仕事も休み。 街を一人で歩くのは久しぶりだ。 いつもは、ユイトが隣にいたから。 街に行くってときは、きまって少しお洒落な服。 デートって感じの。 綺麗も可愛いも言わない彼に腹は立たない。 彼がお洒落をしてても私も何も言わない。 何も言わないけど 何も言わなくても幸せな空間だった。 何も言わないという幸せだった。 幸せを感じて、その場所から離れてしまうのが怖くて、夕方になって帰るのが少し嫌だった。 ワガママはお互い言わなかったけど、 ユイトもそれを感じてたのか、 初めは繋いでいなかった手を強く繋いだ。 そして、夕日が沈む海を二人で見に行って、 『帰ろっか。』と笑って手を握ったまま帰る。 思い出を手の中にこめて。 写真も撮らない。 ビデオも撮らない。 プリクラも。 形に残る思い出よりも、 もっと私たちに大切なものを握りしめた。
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