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「澪」  理性の一片が頭に突き刺さる。  大きく息を吸い込みながら柔かな澪の髪をそっと撫でた。 「悪かった。先生が悪かったよ」  開け放した門前に、迎えに来た水谷家の車が入る音がした。  磯崎は、あまり綺麗ではない汗拭き用のタオルで、澪の濡れた頬を拭った。  まだ幼い魂が、情欲の池にぽっかりと浮かんでいる。そんな瞳に魅入られながら。 「また、おいで」 「はい」  「さようなら」と、はにかみながら振り返る澪を玄関先で見送った。   突き刺さった理性の一片を、どこまで外さずにいられるだろう。  今、自分の胸にある獣じみた欲望と、嫉妬と、哀れみにも似た孤独に耐えうる自分を信じるしかないのかと、冷や汗の滲む手を振った。
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