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部屋は静かだ
天井の照明の
有りそうな場所を
目蓋の奥からじーっと見る
あの光は栄太
俺を導いてくれる灯だ
俺の隣には栄太がいて
栄太の隣には俺がいる
無意識だったけど
俺の思い描く未来には
当たり前に栄太がいた
その栄太を
切り離そうとしたから
俺の心と体は
別れてしまったのだと思う
(栄太の将来を壊したくない。でも、身勝手だと非難されようとも、栄太のいない未来は考えられない)
そう自覚した途端
脳の回路と体の神経が
繋がり始めてきたみたい
人のじゃね?
疑うほど
感覚のなかった腕が
ぴくんと動いた
《コンコン》
静かに入ってきた栄太が
窓辺に立ち
カーテンを開けている
「月が綺麗だぞ、義人」
頬を寄せ合って
窓から見上げた満月の中に
ウサギを見つけ
『いた! ほら、あそこ、お月さまの中で餅つきしてる!』
はしゃいだのは
二年生の夏休みだったかな
図鑑と辞書を
愛読していた栄太は
本物だと信じて喜ぶ俺に
影だなどと言わず
ウサギの発見を一緒に
喜んでくれた
懐かしくて
胸が熱くなる思い出だ
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