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数秒の間
栄太は空を見上げていた
目蓋が痙攣する
薄くしか開かない上に
数秒も維持できないのでは
目覚めたことを
栄太に気づいて貰えない
栄太!
栄太!
「・・・・・・・・・・・・」
呼び掛けたいのに
声が出ない
あー! 悔しい!
カーテンを閉めた栄太が
椅子を引く
「爪が伸びてきたな。俺が切ってやりたいけど、正直、義人の指を傷付けない自信がない。仕方ないから、彩さんに任せるよ」
布団を捲り
俺の手を取った栄太の動きが
止まった
薄く開けた目で見れば
動いた俺の親指を
凝視してる
「・・・・・・ぃ た」
やっと出た声は
ぼそぼそした
賞味期限切れの固いパンに
口の中の水分を
取られたような掠れ声だ
「よ・・・・・・し、と?」
(そうだよ、栄太)
「よしと?」
俺の名を
繰り返し呼んだ栄太の声が
震えてる
息を殺し
俺の顔に伸ばしてきた指で
そっと
優しく
柔らかく
俺の頬に触れる栄太が好き
「えぃた」
さっきより
はっきりと声が出た
「おはよう、義人」
言いながら
ブザーを押した栄太が
すすり泣く
看護士がくるまでの
数十秒間
俺に身を寄せた栄太は
堰を切ったように号泣した
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