1人が本棚に入れています
本棚に追加
手紙を読み終わる頃には
「…絶対泣くなて、無理に決まって、るやろ…」
そう言って、紙の上に溢れた涙が落ちた。
「…それに泣くなて言うてるくせに……」
近藤の書いた最後の文字が少し水で滲んでるのを見ながら
「お前も泣いてるやん」
そう呟いて藤咲は、手紙を手にしたまま近藤の身体を力強く抱き締めた。
「最後まで強がりやがってっ……」
抱き締めたまま小さく呟き、身体に顔を押し付けた。
「ほんま…何やってんねん……」
肩を震わせながらまた小さく呟いた。そして声を殺して泣いた。
ものすごく馬鹿みたいに……
それから月日が経ち……
あのあと医者も驚くほどの回復力で不治の病で二度と戻れないと言われていた仕事に復帰した。
戻る気なんか更々なかったが……
でもそんな事近藤は、望んでないやろて……思った藤咲はマネージャーに復帰すると告げた。
「お疲れ様でした」
復帰後初の仕事も終わり、ある程度挨拶も済ませて楽屋に戻ろうとした時
「藤咲さん!!」
「あっ柴田」
不意に声をかけてきたのは、マネージャー柴田やった。
「どうしたん?」
「今大丈夫ですか?」
「大丈夫やで、今から楽屋に戻ろ思てたし」
そう答えると柴田は、良かった……と一言呟いて
「明日休みにしときましたから」
ずっと仕事でしたから、休んで貰わないと身体壊しますよ……と心配そうな面持ちで付け加えた。
「……分かった……なんかありがとな」
「いえ……じゃあ僕は、ひとまずこれで」
柴田は、そう言い残すと近藤の側を掛かってきた電話に頭を下げながら離れた。
「柴田のやつ別に気い使わんでもええのに……」
急ぐようにして小さくなった柴田の後ろ姿を見ながら、おもわず笑いながら呟いた。
完全に見えなかったのを確認して近藤は、楽屋に戻ろうと歩き出した。
しばらく後輩に祝福されながら楽屋に戻った。
楽屋に入って扉を閉めたのと同時に懐から一枚の取り出した。
それは、あの時近藤が藤咲に書いた最初で最後の手紙
あの日から仕事の時は、必ず懐に入れるようにしている。
この手紙を入れてたら、近藤が一緒にいるような気がするから……
しばらくその手紙を無意識に微笑みながら眺めてからスタッフの声で急いで帰る準備をした藤咲は、手にしていた手紙を鞄の中に入れて楽屋を出た。
最初のコメントを投稿しよう!