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とある病院の病室
二人の男が他の者と変わらない様子で話していた。
「なんか最近忙しそうやな」
「忙しそうやなってお前誰の分まで仕事してる思ってるん?」
「あははっ、ごめんって」
たわいもない話で笑い合う二人は、病室にいるという事以外は何も変わらないが
「体調の方はどうや?」
「今日は調子ええかな、起きててもきつくないし」
「そうか、それなら良かったわ」
ベッドで上半身だけ起こして笑っているのは、藤咲で原因不明の不治の病で治療のしようがない状態だが、本人は至って普通に過ごしている。
そしてパイプ椅子に腰掛けているのは、高校時代からの親友である近藤
この二人は、大阪の田舎からお笑いを志して上京してきたコンビで数年前とあるお笑いコンクールで賞を獲ってからは、人一倍に優れたトーク力とネタの構成の高さが評価され、今人気のコンビになっていた。
そんな中、藤咲が劇場の本番終わりに楽屋で急に呼吸困難に陥り、救急車で運ばれてそして今に至る
「今日は仕事休みなん?」
「ちゃうわ、今日はもう終わっただけ」
「ほんま大変そうやな……大丈夫か?」
「えっ?何が?」
「だから、お前の方は体調大丈夫なんか?」
「俺は見ての通り元気や」
心配すんなと近藤が笑ってみると安心したように藤咲は安堵の声を漏らす
「なんかごめんな、今が一番大事な時期なんに」
「そんなん気にすんな、それまでが忙しかったからゆっくり休めって事やろ」
申し訳なさそうにはよ元に戻さないとな、と笑う藤咲の表情を見て、本当の事を知っている近藤は何とも言えない感情が現れた。
(今度またいつ発作が起きるか分かりません。またもし、発作が起きた場合は命の保証はありません)
医師から宣告された近藤は、本人には伝えることをせず普段通りに接することを決めた。
「……どうした?やっぱり疲れてんちゃうん?」
「えっ?いや、今日は午後からはオフやから大した事ない」
「それならええんやけど……」
その時何か思い出したようにあっ、声を漏らすと引き出しの中から一枚の封筒を取り出した。
なんやそれと近藤が聞けば、なぜか苦笑いを浮かべた藤咲が封筒を近藤に手渡した。
「なんか分からんけどマネージャーがお前に渡しといてって言われて渡されてん」
自分で渡したらええのにな、と笑いながら差し出してきた封筒を近藤は受け取る
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