ゴミ部屋

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ゴミ部屋

 念願の一人暮らしを始めたが、家事が得手ではないため、思っていたような生活ができないでいる。  食事はほぼコンビニ弁当。着る物がなくなってしまうので一応洗濯はするが、掃除にまでは手が回らない。  今は忙しいから仕方がない。そのうちやる、そのうちやると自分に言い訳をし、食った弁当の容器すら、ゴミ箱に捨てることさえせずシンクに置きっ放す暮らしをしていたのだが、そのせいで、ある日とんでもないことが起きた。  その日は珍しく早い時間に家に帰ることができて、帰りに外で食事を済ませていたから、そこそこ余力があった。  面倒ではあったが、もうかなりゴミ屋敷と化しつつあったので、少しくらいは片づけをしようとシンクに立つ。その時、排水溝付近で何か黒い物体が蠢いた。  この有り様だ。ゴキブリなり他の虫なりがいてもおかしくはない。  さすがに虫まで放置したくはないから退治をしないと。そう思った直後、排水溝から粘液のような物が溢れ出した。  シンク内に広がったそれが、ゴミの陰に潜んでいたゴキブリを捕まえ、排水溝の中へ引きずり込んでいく。  何かをぐしゃぐしゃと叩き潰すような…いや、咀嚼するような音が暫く響いて、それきり排水溝からの音は止んだ。  何故か反射的に水を流した。  粘液が溢れてこないことをビクビクと確かめながら、シンク内のゴミを片づけ、ついでに周辺も片づける。  およそ一時間程で、ゴミ溜め寸前だったキッチン周辺は少しは見られるようになった。  でもそれでは足りず、俺は夜通しかけて徹底的にキッチンを片づけた。もちろんキッチンだけではなく、翌日からは家中の至る所を少しずつ掃除てし回った。  あれから数ヶ月。 前は友達など上げるとのできなかった俺の家は、見違えるように綺麗になり、今は誰を呼んでもOKな状態だ。  特にキッチンの片づけには気を遣っていて、ゴミは決して放置しないし、毎日排水溝も掃除して虫など出現しない環境を保っている。  不幸中の幸いにも、あの日以来、排水溝から粘膜が溢れてきたことはないが、もうあんなものを見ないためには、気を配り続けるしかないからな。  室内が綺麗な方が当然暮らしは快適だし、まともな暮らしを味わったら、もう二度とあんな惨状には戻りたくない。その気持ちを保ったまま、これからも、虫も妙なものも寄せつけない清潔な暮らしを続けていこう。 ゴミ部屋…完
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