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ところが、
「わかった」
おれは承諾したのだ。他の2人に相談もせずに。
3連続で売上が芳しくなく、さすがにメンバー間にも気まずい空気が流れていた。
このままだといけないのかもしれない、何かを変えないといけないところに来ているのかもしれない、そう思っていたのも事実だ。
だからおれは、選択を誤ってしまった。
フワにもジンタにもきちんと意見を聞くべきだった。
ムロにだって、おれの気持ちを伝えて、その上で判断すべきだった。
無理矢理自身を納得させて、うまくいくはずなんてなかった。
そうして出来上がった曲は、フワが言った『おれらしさ』なんていうものがきっと微塵も入っていないような、ありふれたような、そんな曲だったと思う。
デモを聞いた時のフワの表情も言葉も、今でも昨日のことのように鮮明に思い出せる。
出会ってから1度もあんな顔は見たことがない。
「これ、本当にお前が作ったのか?」
上機嫌なムロと、腑に落ちないといった顔をしつつ黙ったままのジンタの隣でフワが言う。
おれが頷くと、そのまま黙ってスタジオを出て行った。
いつもならみんなで、ここはああしたほうがいいとかこうしたほうがいいとか、練習しながら曲をいじっていたのだけれど、今回の曲に至ってはその作業は一切なかった。
フワはきつく口を結んだまま、ジンタは少し心配そうに、ムロだけがここ最近で1番うれしそうで。
おれは、間違えたのだ。そう理解しながらもギターを手にして、うたった。
違和感の塊が腹の中でどっしりと重みを増して、吐きそうだった。
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