3 冬の始まり

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「…………先輩知ってます?温泉のところ、お野菜が売ってるんですって」 唐突に変えられた話題に、頭に疑問符を浮かべながら横を向く。 赤信号のため停車中だった。よかった。 「高原のお野菜っておいしいんでしょうね~。お土産に買っていこうかなあ。あ、ご親戚にも買われたらどうですか?お世話になってるお礼だーって持って帰ったら絶対喜ばれますよ!」 うへへとヒュウガは笑う。 つられてぎこちなく笑顔を作ると、少し驚いた顔をしたあとに更に笑った。 「先輩。笑顔、へん。かわいい」 かわいいなんて言われたのは人生初だが心外極まりなかったのでデコピンを食らわせてやった。 「あいたっ」なんてありきたりな悲鳴を上げながらも、ヒュウガは楽しそうに笑う。 そう、楽しそうに笑う、笑う、笑う。 そんな彼女を見ていると、固まった表情が少しずつ溶けていくような気がした。 ひたすら喋り続ける彼女が不思議と鬱陶しいとは思わなかった。 それは久々に心の中に湧き出た感情だった。 悪くない、この破天荒な後輩と共に過ごす時間は、悪くない。
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