3 冬の始まり

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温泉は予想以上に広くまったり過ごせた。 露天から見る景色もなかなかに絶景だったと言えるだろう。 見渡す限り、山。 先日舞った雪が少し残っている。 標高が高いと舞う程度の雪も残るんだな。 帰りの車内では行きよりも更にご機嫌なヒュウガが絶え間なく話を続けていた。 「わたし若干の潔癖があって温泉は倦厭していたんですけどとっても良いところでした!ああ、関東に居る時にもっといろいろ行っておくんだったなあ。本当は先輩と一緒に入りたかったんですけど。男の子に生まれたかったぁ。そしたら裸のお付き合い!ってやつできたのに」 何だそれはと思いつつも真っ直ぐ前を見て運転を続ける。 温泉なんていつでも行けばいい。 幸いこの地域は温泉に恵まれてる。 そもそも一段落したら関東に戻るだろうに。 「先輩」 待ち合わせ場所に指定されていたコンビニに着く頃、小さな声でヒュウガが呟いた。 駐車をして左を向く。 先ほどまでのふざけた笑いではなく、穏やかに微笑むって言ったらいいのだろうか、そんな表情をして彼女は言葉を続けた。 「温泉つきあってもらってありがとうございました。先輩は楽しかったですか?」 少し思案してから、小さく頷く。 けして嘘でなく本心だ。 最初はひたすら喋り続けてはひとりで笑い出す後輩にうんざりするかと心配もしたが、杞憂だった。 嫌じゃない、なぜだかそう思うのだった。 頷いたおれを見て、みるみるうちにヒュウガの表情が明るくなる。 「よかったぁ。また遊んでくださいね!わたし当分こっちにいますから。それじゃあ、お仕事頑張ってください!また連絡します!」 元気よく車を降りると90度に近い深いお辞儀をし、大きく手を振るヒュウガ。 ガソリンスタンドの店員並み。 おかしくて思わず口元が緩んだ。 目敏くそれを発見してしまったヒュウガが嬉しそうに顔を綻ばせてまた手を振る。 やめてくれ、と思いながらさっさと車を動かした。
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