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「てか、バンド解散したって聞いて!しかも先輩だけ行方不明って聞いて!すごく心配してたんです。どうしたんですか?何があったんですか?」
おれは困ったように笑う。
手元にスマホがない。現在声の出ないおれの、唯一のコミュニケーションツールはスマホのメモ機能だ。
荷物が置いてある車に目を向けると、同僚が興味津々といった様子で身を乗り出してニヤニヤついていた。
あとで根掘り葉掘り教えろとつついてくるのだろう、勘弁してほしい。
仕方なく口を小さく開いて閉じて、を数回繰り返した。
最初は不思議そうにしていたヒュウガも漸く気付いたようで。
「先輩、こえ…出ないの?」
酷く悲しそうな瞳で、そう、他人事だというのにまるでこの世が終わるくらいな勢いの表情で呟く。
肯定の代わりに、おれは俯いた。
しかしヒュウガはそれ以上何も聞くことなく、ぱっと笑顔になると鞄の中からメモを取り出し何かを書き出した。
「わたし、卒業してから音響の仕事に就いていたんですけど…ちょっと事情があって戻ってきてるんです。これ!わたしのケータイとアプリのIDです。お仕事、終わったら連絡ください!」
呆気にとられて固まっていると、そのメモを左手に握らされた。
「お仕事中、すいませんでした!」
そう言って笑顔のまま立ち上がり、車内の同僚に会釈してから「絶対連絡くださいね!」と叫びながら走り去っていったのだった。
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