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メジャーデビューしてから少し経った頃、新曲の売上があまり良くないことが2度続いた。
「へーきだって。今までが好調すぎたんだから、こういうこともあるだろ。オレは新しい曲、お前らしくて好きだぜ」
フワが笑いながらおれの頭をぽんぽん叩いて、ほっとしたのを覚えている。
他の2人も特に何も言わなかった。
しかし、次の曲も正直売上は上々というわけではなかった。
遊び半分の、ツケでもまわってきているのかな、ぼんやりとそんなことを思っていた時だった。
曲を作っていたおれの部屋にムロが黙って入ってきた。
普段のニヤけた顔じゃない、真剣な表情だったのは今でも忘れられない。
「あのさ、ツカサ。これはあくまでオレの意見で、あー、オレだけの意見、なんだけど」
改まったムロの態度に違和感を覚える。
「このままじゃオレら、ダメだと思うんだよ」
「…うん」
「楽しいだけじゃ…そりゃーよ、曲作るのってすげー楽しくて、そっからプロ目指したわけだけど。そう、オレらさ、もうプロなんだよ」
相変わらず要領を得ない話し方をする。
頭が悪い奴なのだ。
「だから…売れる曲、書いてくれよ」
「…うれる…きょく」
「音楽で食ってくって決めただろ。それって、みんな変わってないだろ?だからさ、一般受けする、売れる曲。今のままの、おまえの曲じゃ、ダメなんだよ」
ムロの言いたいことは頭では理解できた。
やはりおれの作る曲は一般受けするかどうかでいったら微妙なところだ。
好き嫌いが分かれる、それはデビュー前から思っていた。
だけどそれを変えたらおれは何のために音楽をしているのか、分からなくなってしまうのではないかという恐怖も感じていた。
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