EP1  天空

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和佐  「S・・・O―――S・・・てね(笑)」     やがて、山全体がゆるし色に変わり、雲を作る風が光だし、    尾根が野獣の牙のように反射する。     XXX     山小屋がまばゆい光に中に浸け込まれた時、テラスの    テーブルに下り立った霜を丁寧に拭く和佐、時折吹く、生風    に手を止め、雲海を街の喧騒に見立て、ため息を吐く。     XXX 和佐  「?・・あれ」     テラスに座る、初老の女性、ぬい(68)が、手を合わせ    ている。テーブルの上に、灯されたブロンズランタン。 和佐  「ご来光、行かなかったんですか?」 ぬい  「しんどくて・・」 和佐  「残念、山の稜線のご来光は最高です、でも、ご来光     なら、地上のどこででも見れますよね」 ぬい  「ここからの、ご来光も素敵だったよ」     うなずいて、微笑む和佐、ランタンの炎を見つめて。 和佐  「その灯は?」 ぬい  「慰霊の炎・・死んだ息子の為の・・」     ランタンの火が、煌めく。 和佐  「息子さん?いつ亡くなられたんですか?」 ぬい  「もう30年10歳の時、やんちゃな子で、冒険に出て     それっきり・・」 和佐  「・・・なぜ山に?」 ぬい  「天に・・息子のいる所に近い所へ、毎年登ってたけど、     今年が最後かも・・もう登る体力なくなってきた     から・・」 和佐  「山の方がこの火を見つけ易いかも・・でも山って、     たった3kmです、天には山の上でなくても、光は     届きます、きっと息子さんの魂にも見つけられます」 ぬい  「そうね・・」 和佐  「私もお祈りしますね」     和佐とぬいが手を合わせ祈る。 ぬい  「ありがとうんね」 和佐  「いいえ、でも山は良いでしょ?」 ぬい  「ええ、素晴らしい景色ね」 和佐  「ゴンドラとリフトの終点まででも良いので、また     必ず来てください・・きっと良い思い出が出来ます」 ぬい  「・・・必ず来ますね」 和佐  「・・・はい」     雲の海の波にキラキラと天上の太陽光。 ぬい  「・・でも、お日様に手が届きそうね」 和佐  「星にも手が届きます」 ぬい  「やっぱり天国に近いのかしら」 和佐  「そうかも知れない・・」     XXX     テラスの客の相手をする、和佐と礼子。
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