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隣のテーブルでは沈黙が続いている。二人でテーブルを睨みつけるようにして、どちらもピクリとも動かない。こんな風景、どこかで見た。…ああ、将棋だ、将棋。
席を立ち、ドリンクバーのコーナーに歩を進める。さっきカプチーノを飲んだから、次は野菜ジュースということにした。本当はお茶がよかったが、いつもだとジャスミン茶が入っているサーバーには、今日は黒豆茶が入っていた。一度飲んだけれど、あれはわたしの口には合わない。
戻ってきて席に着いても、相変わらず隣のテーブルに動きはない。すごくリアルな写真か何かじゃないかと思うほどだったが、女は瞬きをしているし、男は肩を上下させて息をしているから、とりあえず生身の人間であることは間違いなさそうだ。
やがて、再び男が口を開いた。
「なあ、何が不満なんだ。あれだけ仲良くやってきたのに」
その言葉を聞いて、女が男を、きっと睨みつけた。
「仲良くですって?」
声色が先程までと明らかに違っていた。わたしは女だから、よくわかる。この女の人、間違いなく、プツンと何かが切れている。
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