バニラココア

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「なあ、考え直してくれよ。いま言われたことは改めるから」 ここまでメッタ刺しにされて、まだ立ち上がろうとするその根性だけは褒めたい、と思った。付き合え、と言われれば、いま出て行こうとしている彼女と同じ選択をせざるを得ないが。 「あのね、あたしが嫌なのは、いま言ったことだけじゃないの。でもそれをあんたに全部言っても、時間の無駄。全部あんたに、今まで何回も言ってきたことだから。あたしのことは、もう諦めて。―さよなら」 男に口を挟ませる余裕を持たせなかった女は、長い黒髪を揺らし、出口の方へスタスタと歩いていった。待ってくれよ、のポーズのままでしばらく静止していた男は、やがて力なく、元の席に尻を沈めた。
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